初めて「PAC」という言葉を聞くのは、クライアントから届いたメールかもしれません。PDFを納品した後に、「アクセシビリティ検査に通らなかったため、PDF/UA基準に適合するよう修正して再提出してください」と連絡を受けるケースです。
困るのは、メールに添付された検査レポートに数百件、場合によっては千件を超える問題が並んでいることです。制作担当者にとっては、どこから対応すればよいのか分からないことも少なくありません。
PAC検査が重要な理由
PAC(PDF Accessibility Checker)は、PDFがPDF/UA基準に適合しているかを確認するためのアクセシビリティ検査ツールです。
視覚に障害のある人は、画面上のレイアウトを見るのではなく、スクリーンリーダーで内容を順に読み上げて利用します。PDF内部に適切な構造タグがなければ、スクリーンリーダーは内容を正しく読み上げられません。例えば、次のような問題が起こります。
- 見出しと本文の階層を区別できない
- 表を読み上げる際、データセルと対応する見出しセルを関連付けられない
- リンクに到達すると、長いURLをそのまま読み上げてしまう
- 背景色の図形や装飾線まで本文として読み上げ、情報の把握を妨げる
PAC検査の目的は、支援技術を利用する人にとってファイルが実際に読める状態かを確認することです。見た目のレイアウトが整っているPDFでも、PAC検査では多くの構造上の問題が見つかることがあります。
そのため、行政、教育、医療、金融などの分野では、PAC検査を納品要件として求めるケースが増えています。検査に通らなければ、ファイルの差し戻しや公開不可につながる可能性があります。
InDesignやWordから出力したPDFが不適合になりやすい理由
InDesignからの書き出し、Wordの保存、AcrobatでのPDF作成では、通常「見た目のレイアウトが正しいか」に意識が向きがちです。一方で、PDF内部の構造が正しいかまで確認されないことがあります。
ここでは、PACでよく見られるエラーと、その原因を紹介します。
1. ページ上の装飾要素が読み上げ対象になっている
PACでよくあるエラー:
Path object not taggedまたはContent shall be marked as Artifact
レイアウト上の罫線、背景色の図形、装飾枠は、スクリーンリーダーで読み上げる必要のない視覚的な装飾です。書き出し時にこれらが「装飾物」(Artifact)としてマークされていないと、PACは「内容があるのに定義されていない」と判断してエラーを出します。技術マニュアルにはこうした線や図形が数百、数千個含まれることもあり、大量のエラーにつながりやすい項目です。
2. スクリーンリーダーが表の「行」と「列」を判別できない
PACでよくあるエラー:
Table header cell has no scope attribute
InDesignから出力した表では、表頭の方向を示す属性(Scope)が欠落することがあります。この状態では、スクリーンリーダーはデータセルと表頭の対応関係を理解できず、各セルを順番に読むだけになってしまいます。結果として、表の論理的な意味が伝わりません。
3. リンクが長いURLとして読み上げられる
PACでよくあるエラー:
Link annotation does not have an alternate description
PDF内のリンクは、アクセシビリティ用の説明としてURLがそのまま設定されている場合があります。スクリーンリーダーはリンクに到達すると、https://... のような長いURLを読み上げるため、読書体験を大きく損ねます。PACでは、各リンクに分かりやすいテキスト説明を設定することが求められます。
4. ファイルにPDF/UA適合を示すメタデータがない
PACでよくあるエラー:
pdfuaid:part is missing
PDFの内部情報であるXMPメタデータには、PDF/UAのバージョン識別子を含め、アクセシビリティ基準への適合を示す必要があります。ツールによっては、InDesignの一部バージョンを含めて、この識別子が自動で書き込まれないことがあります。その場合、基本的な検査段階で不適合となります。
PDF/UAエラーを手作業で修正する難しさ
PACのレポートを受け取って困るのは、エラーのルール番号や位置は示されても、具体的な修正方法までは提示されないことです。
手作業で修正する場合は、Acrobatの「タグツリー(Tags)」パネルを開き、コードを編集するようにPDF内部の構造を変更する必要があります。レイアウト制作や翻訳を担当する方にとって、これは専門領域をまたぐ作業になり得ます。
また、50ページ程度の技術マニュアルでも、簡単に千件以上のエラーが検出されます。修正方法を理解していても、1件ずつ処理する時間的な負担は大きいものです。
SimplifyAIによる自動修正の進め方
こうした手間のかかる作業に対し、SimplifyAIは「自動処理+人による確認」で進める修正方法を提供します。
文書をアップロードすると、まず一通りの検査を実行し、多数のエラーを種類別に整理します。
- 自動処理できる項目:装飾グラフィックの一括マーク、表頭方向の推定と補完などについて、システムが修正計画を作成します。
- 人による確認が必要な項目:画像やリンクの説明文です。リンクにはデフォルトの説明候補を自動抽出し、画面上で確認・修正できます。画像については説明を入力するか、「すべて装飾画像としてマーク」を選択できます。
方針を確認した後に修正を実行すると、処理後のファイルに対してPAC検査を再実行します。修正前後の比較レポートと最終PDFをまとめて確認できます。
自動修正できる問題と確認が必要な問題
システムが自動処理できる項目:
- 装飾画像の整理:背景や罫線などの視覚要素を「装飾物」(Artifact)として自動マークし、スクリーンリーダーの読み上げ対象から除外します。
- 表の修正:表頭の「行/列」方向属性(TH Scope)を推定して補完します。
- 識別子の追加:PDF/UA適合を示すタグ(XMPメタデータ)をファイル内部に追加します。
簡単な入力または確認が必要な項目:
- リンクの説明文(Contents):リンクの表示テキストまたはリンク先URLを、読み上げ用の初期内容として自動抽出します。画面上で確認・修正し、適切な読み上げ内容に調整できます。
- 画像・数式の代替テキスト(Alt text):装飾のみの画像は、一括で「装飾物」としてマークできます。内容上重要な画像には、画面上で説明文を入力できます。
現時点で自動修正できない項目:
- 元ファイルのフォント問題(CIDSetの不完全):この問題は、PDF書き出し時のフォント埋め込み設定に起因します。無理に修正すると文字化けが発生するおそれがあるため、レポート上で警告を示し、制作担当者に元ファイルから再出力を依頼することをおすすめします。
適した利用シーン
- 行政、金融、医療など、PDF/UA適合ファイルの提出が求められる業界
- 技術文書、ユーザーマニュアル、製品説明書などで、クライアントのPAC検査に対応する場面
- 過去に作成したPDFをまとめて処理し、アクセシビリティ基準に対応したい場合
PDFにPAC検査の要件がある場合は、まずファイルをアップロードして、無料検査で問題の分布と修正見込みを確認できます。その後、修正を実行するか判断してください。